先日の新聞に、総務省が発表した函館市の人口が掲載されていました。2018年1月1日時点の話ですが、前年比で道内トップの減少幅(3020人減)だったというニュースです。
その記事をきっかけに、少し人口増減のデータなどを調べてみました。過去数十年の国勢調査による人口推移や人口構成分布のグラフ、さらには2040年までの人口予測など、様々なデータがウェブ上に公開されています。それらを見ていると、悲観的な予測ばかり出てきます。
管理人がまだ子供だった頃は、余裕で30万人を超える人口を誇っていたのですが、いつの間にやら我が故郷は悲惨な状況になっていました。
それにしても、いったいなぜ函館市だけがこれほど人口減少が激しいのでしょうか。
北海道の人口分布が札幌一極集中状態にあることは周知の通りです。道内各地から札幌に転出する人が多いことも理解できます。しかし、函館だけが道内最多の減少幅というのは、札幌が魅力的すぎて人口が集中してしまうこと以上の、何か重大な問題があるのではないでしょうか。
そんなわけでこの記事では、函館の人口減少の原因について考察していきます。
目次
函館市の現在の人口および人口構成分布
まずは住民基本台帳人口から、現状を把握しておきましょう。
現在の世帯数および人口
平成30年10月末現在 世帯数 142,809世帯 人口 総数 259,377人 男 118,086人 女
141,291人 年齢区分
年少人口
25,470人(9.8%) 生産年齢人口 144,378人(55.7%) 老齢人口 89,529人(34.5%) (引用元URL:https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2015020600107/)
函館市の2018年10月末時点での人口は、259,377人となっています。驚くなかれ、ついに26万人を割ってしまいました。
男性が118,086人、女性が141,291人です。女性の方が多くなっていますが、そのうち20代女性が10,179人、30代女性が13,081人です。人口構成分布などでは、20代から30代の女性はよく「出産や子育ての中心」とみなされますが、その人数は23,260人。総人口の約9%に過ぎません。
「出産や子育ての中心」がこれほど少ないわけですから、客観的に見て函館市の人口減少に歯止めがかからないのも当然です。
ちなみに、函館市の老齢人口は34.5%です。これは全国平均の27.2%を大幅に上回る数値ですね。
いったいなぜ、これほどまでに急激に函館市の人口減少および高齢化が進んでいるのでしょうか?
函館市の人口減少が激しい理由
管理人は函館出身なので、人口減少が激しい理由も実感としてわかります。友人との会話でも常に話題になるトピックですが、以下に挙げる理由については友人たちに話しても概ね同意してもらえました。
まともな条件の仕事が少ない
おそらく一番の問題はこれです。若者向けのまともな就職口が本当に少ない。もちろん地元企業も毎年新卒者を採用するわけですが、まともな条件の企業はかなり少ないですね。
大学を卒業して地元で就職しようと考えたとしても、条件を見ただけで気力が萎えてきます。
移住者の場合はもっと悲惨ですね。中途採用の場合、募集されている職種も非常に限られているからです。大半がホテルや温泉、飲食系といった観光関係の仕事ばかりです。あとは介護系くらいでしょうか。
ハローワークなどで募集がかかっている職種を見ると、その偏り方に驚きますよ。
給与面や労働条件に問題がある
これは「仕事が少ない」とも関係してきます。実際のところ、募集をかけている職場は割とあるように見えます。しかし大半は驚くほど給与が安いです。首都圏の相場から見るとアルバイトの方が稼げるくらいに見えます。別に函館の物価は安くありません。
また、求人誌などの募集を見て面接に出かけてみると、事前に書かれていた労働条件と違うことを言われるなんてこともザラにあります。
そんなことをしていたら問題になりそうなものですが、悪びれもしないから始末に終えません。
魅力ある大学が少ない
函館市の高校生できちんと勉強して大学進学する生徒は、ほぼ全員が市外へ出ていきます。管理人が学生だった頃は、友人の多くが札幌や東京に進学しました。
正直なところ、地元にある魅力的な大学なんて、複雑系科学や人工知能、ロボット分野などで名前を聞くことがあるはこだて未来大学くらいじゃないでしょうか。
国立大学を狙うならとりあえず北海道大学で札幌でしょうし、医学部や薬学部があるわけでもないです。優秀な学生を留めておける魅力ある大学がほとんどないです。おそらく教育大学を出て教師になりたいという学生くらいですね。
若者向けの遊び場がない
若者の人口が少ない理由の一つは、間違いなく若者向けの遊び場がないことです。
若者がどこかで遊ぼうと思っても、カラオケとかROUND1くらいしかありません。選択肢が非常に狭い。休日に友達と遊ぼうと思っても、すぐにマンネリ化すること請け合いです。若者だけでなく中高年にとっても遊び場が少ないので、「遊び場」自体が少ないかもしれません。函館競馬場や競輪場が賑わう理由もわかりますね。
税金が高い
既に述べたように、函館市の老齢人口は34.5%と全国平均を超えています。このためなのかわかりませんが、函館市は北斗市よりも住民税が高いです。ちなみに、北斗市は北海道新幹線の函館北斗駅がある市ですね。
税金の高さは、住民が転居する理由の一つにもなっています。実際に、私の友人はこの理由で北斗市に引っ越しました。職場までの通勤時間も車通勤なので大差ありませんし、アパート代も函館と変わりません。その上税金も安くなるのですから、引っ越さない理由がないとのことでした。
もっとも、北斗市は全国の市町村で2番目に住民税が安い自治体なので、この比較は函館市にとってフェアではないかもしれません。
行政サービスが不十分
実は函館市よりも北斗市の方が行政サービスが充実しています。たとえば子育て支援などですね。子供への医療費助成についてみると、函館市は中学校卒業までしか補助してくれません。他方、北斗市は高校卒業までカバーしています。助成期間が丸三年違うわけです。子供の入院時の自己負担も北斗市ならゼロです。このあたりははっきりと違いが出てくるところなので、子育て世代が北斗市へ移住するきっかけになっています。たしかに客観的に見て、子育てをするなら北斗市のほうが条件が良さそうです。
前述の友人が引っ越した理由にも、これが含まれていました。税金が高いのにサービスが悪かったら、当然客(住民)もいなくなるな、という印象です。
人口減少が負のスパイラルになっている
以上の原因をまとめると、問題は人口減少が負のスパイラルを構成していることにあります。
大学がないから優秀な若者が出ていき、仕事がないから若者が戻って来ず、逆に仕事のために出ていく。そのため若者人口が減少して老齢人口の割合が増え、保険料や行政サービスに支障をきたし、それがますます若者離れを進めていく。
若者向けの遊び場がないのも、それを作っても採算がとれるほど人口が少ないということが理由でしょう。
そうして若者がいなくなると人口減少が加速し、当然景気も悪くなっていきます。それがますます就職口を狭めてしまう理由になっているのです。
若者向けの政策は得票率に影響しない
おそらく政治家にしてみても、若者向けの政策を打ち出したところで、有権者の大多数は若者以外なので得票に結びつきません。それなら老人福祉や介護サービスなどを充実させると公約した方が票になります。
この状況を変えるべく立ち上がるような若手政治家なども期待できません。立候補したところで当選するほどの票を獲得できないだろうからです。
函館の人口が2030年には20万人未満に
国勢調査に基づいた将来の人口推移の予測が国立社会保障・人口問題研究所によって行われています。
その「将来推計人口(2018年3月推計)」によれば、、函館市の人口は2020年には25万人未満、2030年には20万人未満になるとのことです。実にリアリティーのある予測だと思います。
函館市の人口減少への対策は?
この状況を変えるには、負のスパイラルのどこかを壊すため、思い切った抜本的な対策を取る必要があると思います。
現実的には、政治を変えるのが第一歩でしょうか。
さすがに10年後には20万人を割るというデータを見せれば、老齢人口の多くも函館の将来を憂えて、若者向けの制作が必要なことに同意してくれるでしょう。なにしろ、今生きている人で10年以内に来世へ旅立つ自信のある人は、老齢人口でも少ないでしょうからね。
そうやって政治を変えていき、少しずつ若者を呼び込める街にしていく。これしかないと思います。
具体的な対策としては、市内から人が転出してしまう理由をひとつづつ丁寧に潰していくしかありません。
正社員雇用を増やすための公的支援を行うべき
私の見るところ、問題の大半は経済面に由来します。ここを解消すれば、多くの問題が自然と好転し始めます。ですから、函館市は経済問題をまっさきに解決しなければなりません。
仕事の少なさと就労条件の悪さを解消するなら、まず正社員雇用を増やしていくしかないでしょう。それができる企業が少ないというのであれば、函館市が正社員雇用を推進する制度を作っていくべきです。
たとえば、企業が正社員をひとり増やすごとに何らかの公的支援を行う、などです。これによって労働人口とその年齢層の可処分所得が増えるのですから、経済が周り税収が増えることも期待できます。介護福祉という経済上の生産性がない分野に財源を投入するよりも、よほど函館市民全体に好影響があります。市の財政も好転するでしょう。
可処分所得が増えれば、必ずそれを目当てに企業が進出してきます。お金を使えるようになった若者向けのショップや施設が建つようになります。これによって新たな雇用も生まれるので、ますます景気は良くなるでしょう。
若者の経済状況が改善されれば、人は自然と結婚にも意識が向くようになります。現在の日本人の少子化問題は、経済問題が一因となっています。安心して子育てできる経済状況が揃っていれば、結婚出産に踏み切るカップルは増加します。
こういう状況にまで持っていければ、保険料の問題も解決されます。若者の人口が増えれば、老齢人口の負担を支えきれるからです。