最終更新日:2018/11/21
追記:ついに4時間未満での運行が実現することになりました。このダイヤ変更の影響について、記事末尾に追記しました。
2016年3月に開業する北海道新幹線新については、かなりネガティブな情報ばかりが目につきます。
特に私の地元である函館では、「本当に観光客が増えるのか?」「飛行機もあるのに、利用客がそんなにいるのか?」などと懐疑的な人も少なくありません。少なくとも私の周囲の友人はみんなそう言ってますね。
そんな中で、今回さらに利用者減が想像される情報が出てきました。
当初から要望されていた、「新函館北斗~東京間の所要時間を4時間未満で運行する」という計画をJR北海道が見送る方針なのだそうです。
この件についての詳細と、予想される地元の反応を考察してみます。
「新函館北斗~東京」の所要時間がなぜ問題なのか?
そもそもなぜ「新函館北斗~東京」間の所要時間が問題なのでしょうか?
実は過去の調査によって、「東京と新函館北斗間の移動に4時間以上かかるのであれば、新幹線ではなく飛行機を選ぶ」というデータがはっきり出ているからなのです。
所要時間4時間以上では利用者にとって魅力が薄いので、多くの旅行者は北海道新幹線をわざわざ利用したりしないと予想されるわけですね。
逆に東京から3時間台であれば、新幹線を好む人が多いこともデータからわかっています。
こうした理由から所要時間が注目されていたのですね。
ちなみに、JR側も4時間台では新幹線の採算が取れずに赤字になる可能性も否定できませんが、それ以上に深刻なのは北海道新幹線による観光客増加とそれによる経済効果を期待していた自治体や地元経済界です。
彼らは北海道新幹線による経済効果のために多くの投資を行っているので、利用者が想定よりも少なくなることは大損害につながります。
ですから「所要時間4時間未満」を強く求めてきたわけですが、今回JR北海道はこれを見送る方針を固め、地元の期待を裏切ったわけです。
なぜJR北海道は4時間未満の運行を見送ったのか?
それでは、なぜJR北海道は地元の要望を無視して4時間未満の運行を見送ったのでしょうか?
これは以前から言われていることですが、北海道新幹線は貨物列車など在来線との共用区間が非常に多いため、あまりスピードが出せないのです。
青函トンネルを含めた「新中小国信号場~木古内駅」の在来線との共用区間は、なんと82.1kmにも及びます。これは新函館北斗~新青森間149㎞の半分以上です。
そしてその区間は安全のために、現在の特急列車と同じ最高時速140㎞でしか走れません。
つまり北海道新幹線は、新函館北斗までの区間だと新幹線と名乗るのもおこがましいレベルの運行しかできないのですね。
それを何とかするための方策として、新幹線とすれ違う貨物列車のダイヤを調整するなどして、青函トンネル内の最高速度を上げるよう自治体や地元経済界は要望していたのです。
実際に青函トンネルは最高時速200㎞まで耐えられる設計ですから、ダイヤを調整すればこれは実現不可能な要望ではありません。
しかしJR北海道は、無理なく定時運行できる方がいいと判断して「青函トンネル内の最高時速140㎞」で運行する方針を固めた、つまり東京から4時間未満の運行を諦めたわけです。
函館など地元の反応は?
この方針に対して、間違いなく自治体や地元経済界は反発すると思います。
ただでさえ北海道新幹線の経済効果に対して懐疑的な視線が多く、新函館北斗駅前の開発も進んでいないというのに、さらにこの発表ですからね。
すでに投資した分を本当に回収できるのかさえ怪しくなっているのですから、新規に投資する企業は少なくなる気がしますね。
函館市民としても、東京まで4時間以上かかるというのは全く魅力的じゃありません。
そもそも北海道新幹線については、先日発表された運賃が想像以上に高かったこともあり、私の周りの函館住民は「東京まで行くなら今までどおり飛行機だな」という意見が大半でした。
これで所要時間が3時間台になれば話は変わってくるのですが、予想通り4時間以上かかるのであれば「飛行機を選ばない理由がない」という感じです。
せいぜい高所恐怖症の人が使うくらいでしょうね。
それにしたって特急から東北新幹線に乗り継ぐ現在の方法と所要時間が大差ないわけですし、北海道新幹線が開通したからって飛躍的に便利になるわけじゃないんですよね。
「ただでさえ低かった北海道新幹線に対する期待度が今回の発表で一段と低くなった」というのが率直な感想だと思います。
追記:所要時間が3時間58分にダイヤ変更!その効果は?
2018年11月に発表されたダイヤでは、2019年春からの新函館北斗駅-東京駅間の所要時間が3時間58分に変更されました。開業から丸3年経過しましたが、ようやく4時間を切ったかという印象ですね。この記事でも書いているように、3時間台と4時間台では旅行客の受ける印象が全く違います。微々たる変化かもしれませんが、観光産業の発展を望む地元民としては嬉しいニュースです。
もともと所要時間が4時間台だった理由は、青函トンネル内で貨物列車とすれ違う際に風圧で貨物が吹き飛ぶのではないかと危惧して、トンネル内での新幹線速度を制限していたからです。ところが、2018年9月に行った検証試験では、速度を160キロまで上げても危惧したような問題は起こりませんでした。そこで2019年の春からダイヤを改正し、所要時間3時間台になるような運行を行うことにしたわけですね。
率直に言って、貨物列車に影響が出ないかの検証試験は開業前に行うべきだったと思います。それによって3時間台の移動が可能になれば、新幹線の初動は大幅に変わっていたことでしょう。3年経過してから短縮されても、全国的にはそれほど大きなニュースにはならないだろうと思います。日本中の注目を集めていた3年前に発表するのと、2017年度に98億円もの赤字を出してから慌てて動くのでは、明らかに印象が違いますからね。このあたりの対応の拙さは、JR北海道の経営陣の見通しの甘さを表しています。
関連記事:JR北海道の赤字経営を再建するには?国有化が地方再建への鍵
ではどこまで今回のダイヤ変更の影響が出るでしょうか?
私は飛行機から客を奪えるほどの変化だとはとても思えません。やはり問題になるのは、「すでに北海道新幹線の所要時間は4時間台」という認識が広まってしまっていることです。開業直後ならインパクトが強かったでしょう。しかし、既に広まった認識を上書きできるほどかと言うと、やや疑問があります。一旦認識を固定化させた人が、わざわざその認識を書き換えてくれるかというと疑わしいです。少なくとも、昨年度の98億円もの赤字を補填できるほど劇的な変更ではないことは間違いありません。
もちろん、現状取りうる改善策としては悪くありません。所要時間3時間台は、これから北海道に興味を持つ人に対してならそれなりに訴えかけるものがあると思います。ですから、ここからさらに追加の方策を取るなどして、旅行客を北海道新幹線に惹きつけなければなりません。そのあたりの案があるのかどうか、今後のJR北海道の動きを見守りたいと思います。