正月の伝統的な料理といえば、1月7日に食べる七草粥が全国的に有名です。私の友人に関東出身者がいるのですが、彼の家ではきちんと七草粥を食べているそうです。
一方、函館出身である私は七草粥を食べたことがありません。我が家だけでなく、北海道出身の友人は皆、子供の頃に食べたことがなかったと言っています。
このように北海道では七草粥を食べる風習がないのです。
この記事ではその理由について、この伝統の由来から解説していきます。
そもそも七草粥とは?
七草粥とは、「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ」の七草を細かく刻んで塩で味付けしたおかゆのことです。1月7日の朝に食べられます。
由来については諸説あるようですが、元々は古代中国の正月の風習だったのが、日本に伝わって変化したようです。当時の中国では、1月7日(人日の節句)に七種類の野菜を入れた「あつもの」を食べており、それが日本に伝わって七草粥に変化したのだとのこと。
粥を食べる理由は、「その一年の無病息災を願うため」「正月料理によって弱った胃腸を休めるため」と言われています。文献によると、平安時代からずっと行われてきた伝統ある風習です。
北海道ではなぜ七草粥を食べないのか?
ではなぜ北海道では、このような伝統ある風習を行わないのでしょうか?
実は単純な理由があります。かつて冬の北海道では七草を採取することが不可能だったからです。
考えてみれば当たり前の話ですが、北海道の冬は関西や関東地方とは比較にならないほど寒く、一面が雪で覆われます。正月に雪がないという事態はほぼ考えられません。そんな中で野草を採取するのは困難です。
そもそも七草の一種であるホトケノザは、北海道に生息していないのです。日本だと本州や四国、九州には生息しているようですが、北海道にはありません。
このように昔の北海道では、気候的に七草粥を食べることが不可能だったのです。そして物流も未発達だったので材料入手ができず、正月の食文化としては定着しなかったのですね。
現在は状況に変化が?
ちなみに、流通状況が劇的に改善している現在では事情が変わっています。冬の北海道でもスーパーまで足を伸ばせば、七草粥用の材料がセットで販売されているからです。他の地域から引っ越してきた人も、簡単に材料を入手できます。
ほんの10年ほど前までは、スーパーでも七草を見かけることがなかったように思います。それを考えると、輸送技術が随分進歩しているのかもしれません。
しかし肝心の道民に七草粥の習慣が定着したかというと、そんなことはありません。やはり子供の頃から食べてきたわけではないので、あえて正月に七草粥を食べようとは考えないのでしょうね。
「別に普通の粥と大差ないだろうし、美味しいものでもなさそうだから、わざわざ作って食べようとは思わないなあ」
これが多くの道民の率直な感想ではないでしょうか。少なくとも私はそうですね。それに正月から雪道を歩いて、スーパーまでわざわざ材料を買いに行くのは億劫です。
恵方巻きのようにゴリ押しされているわけでもありませんし、見た目もそれほど美味しくなさそうですからね。
それに1月7日には別のものを食べています。
七草粥の代わりに食べる物とは?
では、道民は1月7日の朝に特別なものを食べないのでしょうか?
これに関しては道内でも地域によって差があります。『日本の食生活全集』という地域ごとの食文化をまとめた本によれば、留萌の羽幌町焼尻島では有り合わせの野菜で粥を作るそうです。
一方、松前町では焼き餅を入れた粒あんのお汁粉を食べます。私の家庭は松前町と同じくお汁粉でしたね。
ただ北海道全体で見ると、そもそも粥を食べる習慣そのものがない地域が多いかもしれません。中途半端に採用するのではなく、一切やらないわけですね。
七草粥を食べないのは北海道だけなのか?
では、七草粥を食べない地域は北海道だけなのでしょうか?
実は全国的に見ると、七草をきちんと全部入れて粥にしていない地域もたくさんあります。
たとえば東北地方は、北海道同様に雪が多く寒い地域ですから、正月に特定の野草を採取するのは困難です。そのため七草にこだわらず、7種類の具材を入れた汁物や粥、雑煮などを食べているようです。行事を行うのも1月7日ではなく1月15日です。青森県では呼び方も「けのしる」というようで、全然違いますね。
宮城県では、「ななくさがゆ」という名前でも中身が違っており、とにかく7種類の食材を入れた粥を食べるようです。
山形県では納豆汁が代わりに食べられているそうです。
石川県だとあずき入りの雑煮や鏡餅入りのぜんざいが食べられているところもあります。
沖縄県だと雑炊に豚肉が入っているようです。なんだか七草粥の「胃腸に良い」という話と少しズレている感じもしますが、料理としては一番おいしそうなのが面白いですね。
このように七草粥は地域ごとのバリエーションが豊富で、粥以外の料理を食べるところもあります。七草すべてを入れた塩味の粥を食べていなくても、取り立てて珍しくもないといえるでしょう。
まとめ
- 北海道の気候では七草粥の材料が手に入らないので、習慣として定着しなかった。
- 現在ではスーパーで簡単に入手できるが、わざわざ習慣として取り入れる家庭は少ない。
- 日本全国でも七草粥には地域差があり、東北など1月7日に食べていない地域もある。
こういう地域差がある行事は調べてみると面白いですね。
ちなみに北海道の正月には、他にも独自の風習や習慣があります。このことは別の記事で紹介しました。
こうした違いが生まれた理由を考察してみると、その地方の歴史が垣間見えて面白いですね。