函館市の観光ガイドを見れば必ず名前が出てくる建物に「旧ロシア領事館」があります。
これは国内唯一の現存する「ロシア帝国」時代の領事館であり、赤レンガの洋風な外観は歴史好きならずとも一見の価値ありです。
しかしこの旧ロシア領事館ですが、実は現在のところ建物の中が一般公開されていません。
それも最近立ち入りが制限されたというわけではなく、なんと1996年から20年間も閉鎖され続けているのです。
実は私、小学生の頃に学校行事か何かでこの建物の中に入ったことがありますが、その頃が最後だったんですね……。
しかしいったいなぜ、貴重な観光資源である旧ロシア領事館が閉鎖され続けているのでしょうか?
一般公開されない理由などを調べてみました。
そもそも旧ロシア領事館とは?
旧ロシア領事館は、函館市船見町にあるロシア帝国時代の領事館です。
By YUTAKA HOSHINO – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link
船見町といっても市民しかわからないと思いますが、ガイドブックなんかには「元町エリア」などと書かれていることが多いですね。
ちょうど函館山の麓あたりで、ハリストス正教会よりも海側、外国人墓地より山側にあります。
現在の建物は函館大火の後に再建された1908年(明治41年)のものなので、既に建造より100年以上が経過しているわけですね。
最初に書いたように、日本国内に現存する唯一のロシア革命以前の領事館です。
ちなみに、ロシア革命後もソビエト連邦の領事館として使用されており、終戦前の1944年まで実際に使用されていました。
ここを函館市が管理するようになったのは終戦後の1964年からであり、その後1996年までの32年間は「函館市立道南青年の家」という宿泊研修施設として運営されます。
しかし1996年に閉鎖されてからは内部が見られなくなり、外観を眺めるだけの施設になってしまいました。
現在は「函館市景観形成指定建造物」に指定されています。
まあ、赤と白のコントラストが美しい、いかにも「異国情緒あふれる函館元町らしさ」が感じられる建物なので、外観だけでも見る価値がありますけど、どうせなら中がどうなっているのか気になりますよね。
いったいなぜ内部の公開がされなくなってしまったのでしょうか?
旧ロシア領事館が一般公開されていない理由は?
旧ロシア領事館は過去20年間ずっと一般公開されなかったわけではなく、3年前に1日だけ一般公開されたことがありました。
その時には歴史的建造物のファンが大勢詰めかけ、長蛇の列ができていたそうです。
その一般公開に参加した人によれば、階段を登った2階については危険なので公開されず、1階や外壁についても歪みや劣化がかなり深刻だったとのこと。
この劣化が原因で、一般公開時には一度に入れる人数が制限されていたとか。
こうした状況から推測するに、「建物の劣化が激しすぎて安全が確保できない」ことが一般公開されない理由であることは間違いなさそうです。
なぜ函館市は旧ロシア領事館を修復しないのか?
では、いったいなぜ函館市は旧ロシア領事館を修復しないのでしょうか?
こういった建造物は適切な修復工事さえすれば、再び安全性を確保でき、一般公開が可能になるはずです。
それをしない理由は何なのでしょうか?
これは「函館市立道南青年の家」が閉鎖された時期を考えれば容易に推測がつきます。
1996年といえば、日本の景気はバブル崩壊から緩やかに回復傾向に会ったものの、全体としてはかつての繁栄には程遠く、函館市の財政状況も厳しい時期でした。
函館市の人口もピークを過ぎて減少傾向にあり、青少年の宿泊研修施設を変わらず運営する余裕などなかったことは想像に難くありません。
貴重な観光資源であり「函館市景観形成指定建造物」にも指定されている歴史的建造物なので解体するわけにも行かず、かといって有効活用する方策も見当たらない。
そうして手をこまねいているうちに建物の老朽化がより深刻になり、修繕費用も膨大になってしまったということなのではないでしょうか。
つまり、函館市の予算不足が修復されない理由なのです。
最近の函館市の試算によれば、旧ロシア領事館の改修作業には1億1400万円もの費用がかかるのだとか
さすがにポンと出せる金額ではないですよね。
実は2008年にロシアの外相が資金提供の申し出を行ったことがあったのですが、2008年といえばリーマン・ショックが起こった時期。あっさりと資金提供の申し出は白紙となってしまったそうです。
非常に間が悪いですね~。
後1年リーマン・ショックが遅かったら、ひょっとしたら今頃建物が修繕されていたかもしれないのに……。
旧ロシア領事館がホテル化される可能性も?
予算不足で改修費用も出せないという厳しい状況ですが、函館市も無策でいるわけではなく、民間に売却もしくは貸し出す方向で検討しているようです。
民間に丸投げするのを方策と言ってよいかどうかは微妙なところですが……。
まあ、貴重な建物を腐らせておくよりも、民間に払い下げたり賃貸したほうがいいのは明らかですね。
問題は、ガタが来ている旧ロシア領事館を利用したいという民間業者がいるかどうかです。
この点については、2015年に函館市が聞き取り調査を行ったところ、条件次第でホテルや福祉施設として利用したい旨の申し出があったとのこと。
つまり、場合によっては旧ロシア領事館が元町地区のホテルとして再出発するかもしれないわけです!
これは中々良い使い道ではないでしょうか?
現在、函館市を訪問する観光客は増加し続けており、特にアジアからの観光客はここ数年で一気に増えています。
市内の主な観光名所では、しばしば中国語や韓国語が聞こえてくるくらいですからね。
同時に市内のホテルや旅館といった宿泊施設が不足気味になっており、函館市内に新たなホテルを建築することは急務となっています。
そういう状況ですから、旧ロシア領事館をホテル化してしまうというのは一石二鳥のうまい手段だと私は思いますね。
どうせなら北海道新幹線の開業に間に合わせておけよという気もしますが、まあ過ぎたことは言っても仕様がありません。
今からでもぜひ建物を修繕してホテルとして生まれ変わらせて欲しいです。
ホテル化への課題は費用負担?
旧ロシア領事館がホテル化すれば、建物も再利用できるしホテル不足も解消されて一石二鳥だと思うのですが、この方法にはまだ課題があるようです。
それが、企業側が求めている「ホテル運営の前に建物の修繕工事費用は函館市が負担してくれ」という条件。
「修繕した後はちゃんと運営するから、引き渡し前に修繕しておいてくれ」ってことですね。
まあ、企業側からすれば、建物代金を払ったあとに改めて改修費用1億1400万円を負担しなければならないというのは嫌ですよね。
「以後の維持費もなくなるのだし、建物の売却代金も入るのだから、せめて改修費用くらい出してくれ」という主張はわからなくもありません。
ただし、函館市としても財政が苦しいわけですし、もしホテルとして利用するのであれば直接市民の利益になるわけでもないのですから、税金の投入に消極的になるのもわかります。
このあたりの落とし所をどうするのかが問題ですね。
函館市は観光都市なのだから、歴史的建造物の保全費用に税金を投入すれば経済が良くなり、間接的に市民の利益にもなるので、個人的には費用負担してもいいと思うのですが……。
なんにせよ、結論を出すなら早めに行うべきでしょうね。
アジアからの観光客が減ってから宿泊施設が完成するようでは、まったく意味がありませんから。
まとめ
- 旧ロシア領事館が一般公開されないのは老朽化で安全面に問題があるから。
- 建物が修繕されないのは、利用用途がないことと函館市の予算不足。
- 函館市が修繕費用を負担するならホテルとして利用したいという企業もある。