JR北海道の赤字経営を再建するには?国有化が地方再建への鍵

北海道新聞が報じたところによれば、JR北海道の9月中間連結決算と2019年3月期業績予想が過去最悪になる見込みだそうです。

直接の原因は台風21号の影響と胆振東部地震の復興費用、およびそれによる旅客減だといいます。

しかしJR北海道はそれ以前からも赤字が続いています。こうした恒常的な赤字の原因はいったい何なのでしょうか?

また先日11月9日には、信号機のボルトが外れて線路に倒れる事態が発生しました。まさに不祥事続きの状況です。こうした不祥事体質を改善するにはどうすればよいのでしょうか?

こうした問題について、新自由主義によるインフラ民営化の是非という観点から考察していきます。

不祥事問題は設備老朽化に起因

不祥事に関しては、設備老朽化などの問題が深刻化しているためだと推定されます。

老朽化した設備に対して十分な保守点検ができていないため、実際に運行してから問題が生じる事態になっているわけです。

この解決策は、結局のところ赤字経営をいかに改善し、設備投資と保守点検に資金を投入するかということしかありません。

つまり、赤字体質をどう解消するかが重要なのです。

JR北海道の赤字経営を再建する方法は?

さて、このように厳しい営業状況に置かれているJR北海道ですが、果たして経営再建する方法はあるのでしょうか?

この点について、JR北海道が行っている対策は主に3つあるようです。

まずは不動産を中心とした関連事業の強化

これは鉄道以外の分野に投資して利益を出し、その利益で赤字を補填するというものです。赤字部門の問題は黒字部門で取り戻そうというわけですね。

JRは不動産開発会社もありましたし、そのあたりの事業で利益を出そうということでしょう。

もはや鉄道会社は鉄道を走らせているだけでは経営を維持できない、ということですね。

続いては、外国からの観光需要の取り込み

地方の鉄道利用者が減少しているのであれば、海外から一時的な利用者を持ってくれば良いという発想ですね。

これに関しては、訪日外国人観光客が増加傾向にあることが追い風となります。問題は外国人観光客を北海道へと呼び込む活動をきちんとできているのかですね。

また、外国人観光客が増えたとしても、それによって赤字がまかなえるレベルになるのかも問題です。

そもそも鉄道利用者がいない=人口が少なく十分なサービスが提供できない場所に、どこまで外国人観光客が魅力を感じてくれるかも問題ではあります。

そして最後に、赤字路線や駅を廃止することでコストカットを行うというものです。

前二者についても気になる点はありますが、最大の問題はこの赤字路線廃止策です。

維持困難な赤字路線や駅を廃止?

JR北海道では、単独で維持困難な赤字路線や駅を廃止する方向で調整しています。赤字部門をカットして経営再建を図る。実に合理的な手段です。

たしかに合理的経済的判断を旨とする営利企業としては、そうするのが適切だとは理解できます。そうでなければ、むしろ逆に株主から突き上げを食らってもおかしくありません。

しかし、問題はこうした議論の前提にあります。

地元利用者は少数だし利益を生まない、だから営利企業としては切り捨てざるを得ない。

この議論の根底にあるのは、利益第一主義です。利益が多いか少ないかによって、なにを行うべきかの判断を下しています。

そうした判断基準をこの場面に適用するのは正しいのでしょうか?

過疎化少子化高齢化が進んでいる地方で、しかも現在は自動車運転の年齢制限まで議論されていて代替手段がないような状況で、鉄道路線を廃止するのはその土地に住む人々の暮らしを著しく困難にします。

そういった事情を考慮せずに利益第一で判断する。本当にそれで良いのでしょうか。

問題は鉄道事業に利益第一主義を持ち込むことそのものなのではないでしょうか。

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根本的な問題は新自由主義による民営化

新自由主義とその帰結

新自由主義の名のもとに小さな政府を指向し、旧国鉄を解体しました。

新自由主義は公共の福祉やインフラサービスなどを国家機能から分離し、民営化に委ねるという思想です。その中には鉄道事業や電話事業といった国家基盤となる事業も当然含まれています。

元々は戦後主流だった社会福祉国家型の路線に対する反動として現れた経済思想です。ハイエクなどの名だたる経済思想家がこれを唱えました。

イギリスのサッチャー首相やアメリカのレーガン大統領が同時期にこの路線へと舵を取り、その流れで日本でも民営化の大きな波ができたわけですね。その結果はご存知の通り、様々な規制緩和等が行われ、国鉄も解体されてJRとなりました。

しかし、以前にも書きましたが、国民生活の基盤たるインフラを民間企業に委ねることは、あまりにも大きなリスクを伴います。生活に密接に関わる部分を経済の論理に委ねることになるからです。利益第一主義です。

もちろん、利益第一主義を取ったからと言って、すぐに住民生活に不利益をもたらすわけではありません。住民との関係が良好な方がメリットが大きいと判断すれば、企業も住民感情を重視してその便益を考慮するでしょう。

しかし住民の利益を無視したほうが得られる企業利益が大きいとなった場合には、企業がそれをためらう理由はありません。利用者が少ない赤字路線を廃止して、その分を別の黒字路線のサービス拡張に使用したり、より利益を得られる投資先に投資する。これは合理的な企業判断です。法律にも違反していません。廃止路線を利用していた少数の人々の生活が脅かされますが、企業側が利益を度外視してでもそれを助ける理由などないのです。企業には経済活動の自由があるからです。

これが新自由主義だとかリバタニアリズムと呼ばれる経済思想の帰結です。民営化した以上は、こういう判断が行われて当然なわけです。

インフラが国営であることの意味

国営の場合は違います。

仮にこれが国家事業としての鉄道だった場合、国家は国民の利益を無視してまで利潤を追求することはできないのです。

なぜなら、国家には憲法的な意味での経済活動の自由はなく、逆に個人の社会権や生存権、幸福追求権を保障する立場にあるからです。

個人の権利を保護するために、たとえ利益が出なくても、サービスの質を維持し続ける。これが国営インフラサービスの帰結です。

だからこそ、インフラサービスは国家の領分だと考えられてきたのです。

JR北海道が不祥事や赤字続きである構造的理由

もともと北海道などは広大な土地に対して人口が少なく、民営化したら赤字になるのはわかっていました。

そして赤字化する路線に対して、それをすぐに廃止できないとなれば、他にやれることは人件費や車両整備にかかるサービスコストを抑えるか、路線を値上げすることくらいでしょう。

こうした「経済的・合理的」な判断に基づいて関係者が行動した結果起こったのが、JR北海道の数々の不祥事です。

JR北海道に不祥事が続くのは、結局のところそれが個々の労働者や上層部の問題ではなく、赤字必至の路線を民営化したことの必然的帰結だからです。

JR北海道の問題を解決する手段は再国有化

では、この問題を解決する手段はあるのでしょうか?

既に論じたように、抜本的な問題は赤字路線を民営化したことそのものです。

そして民間企業のJR北海道による経営努力では、赤字路線を解消できません。

ということは、考えられる方策は「JR北海道を再国有化する」ことです。

このように言うと世界の潮流に反した非常識な提案のように思われるかもしれません。しかし、実は国外に目を向ければ、インフラ事業の再国有化には多くの前例があります。

ニュージーランドの事例

新自由主義による民営化の代表例と目されていたニュージーランドでは、一旦民営化された郵便貯金や航空会社、鉄道網の一部が再国有化されました。

鉄道民営化や郵政民営化といったどこかで聞いたことのある政策が、モデルケースとされた国ではっきりと失敗しているわけです。

イギリスの事例

また、サッチャー首相の活躍で新自由主義の代表とされているイギリスでも、このような動きが起こっています。

2018年5月には鉄道イーストコースト本線を再国有化する方針が発表されました。

こうした再国有化はイギリスで過去十数年で3回起こっています。

その他の先進国の公共路線

イギリスだけではありません。そもそも、先進国であるフランスもドイツもロシアも鉄道は国営です。

新自由主義を強力に推進してきたアメリカですらそうです。

アメリカ最大の鉄道会社アムトラックは、連邦政府出資の株式会社です。つまり実質的な国有会社なんですね。

アムトラックは設立が1970年代ですが、新自由主義の時代に入っても民営化の波に流されませんでした。

事例からわかること

こうした事例からわかることは明白でしょう。

人口などの問題から赤字になりやすい旅客インフラ事業は、国家が運営するのが世界的にも普通なのです。

経済の論理を持ち込むには、インフラ事業は生活に直結しすぎています。人口が多くて利用者も多い特殊な地理的条件でもない限り、赤字になるのは必至です。にもかかわらず、なくなったときの影響が大きすぎる。

この分野は民営化に適していないのですね。

JR北海道を国有化することのメリット

JR北海道を国有化することには、積極的なメリットがあります。それは鉄道交通網を整備することで、逆に地方に活気が生まれることです。

都会の人には想像できないかもしれませんが、田舎の鉄道は路線も本数も少ないので生活が本当に窮屈です。自動車がなければやっていけません。逆に言うと、自動車を運転したくなくても、鉄道が整備されていないので運転せざるをえないのです。

こういう状況を改善すれば、地方にも活気が戻るように思います。路線の保守点検には人件費もかかりますが、その分だけ雇用も生まれます。それが地方経済を活性化させます。

そうすればGDPも伸びて全体の税収も増えてくるでしょう。

証券や金融市場に金を投入するよりも、国内経済を活性化させる効果がある物に資金を投下するべきです。それが経済を回します。

地方の活気が戻れば、細かなサービスも整備されて、外国人観光客の誘致もスムーズにいきます。

観光客は本当の「田舎」や「自然」が見たいのではありません。必要なときには他人の手を借りられる、適度に管理された不自由さを楽しみたいだけなのです。

まとめ

  • JR北海道の営業赤字や不祥事体質の根本的な原因は新自由主義による民営化にある。
  • 旅客インフラ事業は世界的にも国営が基本で民間化には適さない。
  • JR北海道を国有化すれば雇用も生まれるし経済も活性化する
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